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京都地方裁判所 昭和52年(わ)1709号 判決

本籍

京都市東山区祇園町南側四九九番地

住居

右同所

旅館経営

畑中伸夫

昭和一一年五月二〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき当裁判所は検察官水野金治郎出席のうえ審理しつぎのとおり判決する。

主文

被告人を懲役八月及び罰金六〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金二〇、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、京都市東山区祇園町南側四九九番地において、旅館「石舟園」を営んでいるものであるが、所得税を免れようと企て、

第一、昭和四九年分の総所得金額は二、九二一万五、八〇一円で、これに対する所得税額は一、一八七万一、四〇〇円であつたにもかかわらず、公表経理上売上の一部を除外し、これによつて得た資金を架空名義の普通預金及び定期預金あるいは有価証券にするなどして所得を秘匿した上、同五〇年三月一五日同区馬町通東大路西入新シ町所在の東山税務署において、同税務署長に対し、同四九年分の総所得金額は四一六万三、七〇一円で、これに対する所得税額は三八万〇、三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて、不正の行為により、右正当な所得税額と右申告にかかる所得税額との差額一、一四九万一、一〇〇円を免れ、

第二、昭和五〇年分の総所得金額は三、五九八万八、三七五円で、これに対する所得税額は一、五二五万〇、五〇〇円であつたにもかかわらず、前同様の不正の方法により所得を秘匿した上、同五一年三月一五日前記東山税務署において、同税務署長に対し、同五〇年分の総所得金額は八五五万八、九八八円で、これに対する所得税額は一三二万四、四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて、不正の行為により、右正当な所得税額と右申告にかかる所得税額との差額一、三九二万六、一〇〇円を免れ、

第三、昭和五一年分の総所得金額は三、七八九万三、二一九円で、これに対する所得税額は一、五九八万七、一〇〇円であつたにもかかわらず、前同様の不正の方法により所得を秘匿した上、同五二年三月一四日前記東山税務署において、同税務署長に対し、同五一年分の総所得金額は九八五万四、七六八円で、これに対する所得税額は一三一万五、八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて、不正の行為により、右正当な所得税額と右申告にかかる所得税額との差額一、四六七万一、三〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一、被告人の当公判廷における供述及び検察官に対する供述調書

一、被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書一二通(検九八乃至一〇九号)

一、証人板谷成弘、池月久芳の当公判廷における各供述、

一、畑中法子、今井正直の検察官に対する各供述調書(検一一一号、九四号)

一、畑中法子(五通)、松本馨、増田重義、今井正次、今井正直の大蔵事務官に対する各質問てん末書(検八乃至一二号、一五号、九一乃至九三号)

一、大蔵事務官作成の査察官調査書(二通)、調査報告書及び現金預金有価証券、等現在高確認書、現金預金有価証券等現在高検査てん末書(二通)、証明書(検一六号、一七号、五九号一八乃至二〇号九六号)

一、加藤芳郎、松尾正筧、鍜倉太一郎、大槻義明作成の各供述書(検三一号、三二号、三六号、四〇号)

一、山川英一(三通)、南竹男(三通)、八田富夫、板谷義弘、頼未精一、木村亮平(二通)、西出正美(三通)、竹路祐造(二通)、岩堀実、島田功、佐貫登、小牟礼保、中村元、北村和夫(二通)、森田安彦、近藤規央、中島敏明、生田茂、大村四郎(二通)、平沢健次、渡辺久美子及び被告人作成の各確認書(検二一乃至二八号、三三乃至三五号、三七乃至三九号、四一乃至四六号四九乃至五八号、九〇号、四八号)

一、平尚武、八重樫幸子(二通)、東洋信託大阪支店証券代行吉田、春田節(三通)、星登、秋本貞雄(四通)、久次米駿輝、大阪証券代行(株)代行課東田中(二通)、杉田康人各作成の照会回答書(検四七号、六〇、六一号、六四号、六九乃至七一号、七三乃至七七号、七九乃至八一号、八三号)

判示第一の事実につき

一、大蔵事務官作成の証明書(所得税確定申告書謄本)脱税額計算書(検二号、五号)

一、細谷清美(二通)、大野芳弘、香月幸碩、中野孝子、隅田栄、鈴木幹夫各作成の回答書(検六六乃至六八号、七八号、八四乃至八六号)

判示第二の事実につき

一、大蔵事務官作成の証明書(所得税確定申告書謄本)及び脱税計算書(検三号、六号)

一、大野芳弘、尾関進、香月幸碩、大阪証券代行(株)代行課東田中、中野孝子、隅田栄、鈴木幹夫、平岡隆(三通)(検六八号、七二号、七八号、八二号、八四号乃至八九号)

判示第三の事実につき

一、大蔵事務官作成の証明書(所得税確定申告書謄本)脱税額計算書(検四号、七号)

一、東洋信託大阪支店証券代行部安松、同中嶋、細谷清美(三通)、大阪証券代行(株)代行課東田中、平岡隆(三通)、渡辺久美子、近藤里美各作成の照会回答書(検六二号、六三号、六五乃至六七号、八二号、八七乃至八九号、九五号)

(法令の適用)

判示各所為はいずれも所得税法二三八条(所定刑中併科刑選択)

併合罪処理につき、刑法四五条前段、四七条本文一〇条、四八条一項、二項

(懲役刑につき、犯情の重い判示第三の罪の刑に法定の加重)

労役場留置につき 刑法一八条

執行猶予につき 刑法二五条一項

訴訟費用につき 刑事訴訟法一八一条一項本文

(情状)

被告人は本件犯行後深く反省し、経営型態を会社組織に改めるとともに、大蔵事務官の指導の下に税理士を顧問とするなど経理の明確化をはかり、修正申告を行なつて所得税、住民税など総額約七千万円を完納していること、脱税のやり方も幼稚で被告人自ら積極的に行為していたものでなく妻のほ脱行為を認識しながらこれを認容していたものであること、公職を凡て辞任していること等諸般の事情を考慮し、懲役刑の執行を猶予することとした次第である。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 藤川真之)

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